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『梅雨が明けてしまったな優』
『そうですね。絵美』
私は大切な幼馴染みである優の返事に頷くと。美術室の窓から、雲一つ無い快晴の空を見上げて。
『天は我を見放したか…』
『幾ら何でも、少し大袈裟ではないかしら?。九条さん』
私は美術部の部長でもある、先輩の女子生徒の方を見ると。
『芸術家を志す私としては、今回の競演会の題である。“季節を象徴する存在”として、梅雨に咲く紫陽花を選んだのだが部長。六月中に梅雨が明けるとは想定外だ』
私がカンバスに描きかけの、雨に打たれる紫陽花の絵を見ながら話すと。先輩でもある部長は笑みを浮かべて。
『そこは芸術家を志す人間として、想像力で補うべきよ九条さん。芸術家が心の中で雨が降っていると思えば、いつでも雨は降るものよ♪』
笑顔で話す部長の言い分に、優も感心したような表情を浮かべて聞いているな。
『成る程。部長の言う通りかも知れないな』
私はそう言うと、カンバスの前の椅子に腰掛けて。梅雨の雨に打たれる紫陽花の姿を想像して…。
『よしっ』
目を開いた私は、心の中で思い描いた梅雨の雨に打たれる紫陽花の姿を一気に仕上げていった。
『シュッ、シュッ、シュッ』
優と部長の二人は、私が芸術作品の創作に没頭している姿を確認すると、其々の作品の創作活動に戻った。
『藤原君は、今回のコンクールに提出する作品として、渡り鳥の燕の石膏像を選んだのね?』
『ペタッ、ペタッ、ペタッ』『はい。部長。毎年海を越えて渡ってくる燕の力強さを、石膏像で表す事が出来れば良いと思っていますね』
『シュッ、シュッ、シュッ』『ペタッ、ペタッ、ペタッ』『シュッ、シュッ、シュッ』
私と優と部長の三人で、其々競演会に提出する作品を仕上げていったが。芸術家を志す同志達と共に過ごす時間と空間は、私にとっては掛替の無い大切な物だと心から感じていた。
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