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俺は品定めもせず、直感に任せて選んだ袋に爪を立てた。
あっさり破れた袋からお目当てのブツが顔を覗かせる。こいつは重畳。この引きの強さも実力のうちだ。自分に酔いしれながら、ブツをいただこうとすると、女の声が割りこんできた。
「クロネコだわ!」
視線を移すと、茶髪の女がゆっくりと近づいてきていた。
「あなた名前は?」
意思の疎通などできるはずがないのに、女は話しかけてくる。
いつもならなにも語らず、駆け足で去るのだが、今夜の俺はなぜだか答える気になった。
「ヤマトだ。ま、アンタには聞こえんだろうが」
「ヤマト……ヤマトなの?」
だが、俺の予想に反し、女は返事をよこしてきた。
なんと俺の声が聞こえたらしい。
「ああ。しかし、アンタはいったい何者なんだ!?」
「私よ! チャコ」
チャコ。その名を聞いたとき、俺の脳天に雷撃が走り、前世の記憶が一瞬にしてよみがえった。数々の記憶がスライドショーのごとく脳裏を流れる。
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