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そこに私の求める自分の姿があった。やはり、この水溜りは、雨が降らないと『以前』の私を映し出さないのだ。幸い、今は梅雨だ。水溜りが出来るチャンスなど、いくらでもある。
私は幸福に包まれながら、水溜りの中にいる健康的な姿の自分を眺め続ける。時折笑顔を作ると、水溜りの中の私も、にこやかに笑ってくれる。やせ細った私の顔の笑顔は、不自然で、不気味だったが、これはそうではない。
私は、飽きることなく、延々と水溜りの中の私を見つめ続けた。
大学を休学し、何もやることがなかった私に、日課が生まれた。
それは、水溜りに通うことだ。
雨が降り、水が溜まったとわかったら、私はすぐさま、部屋の真下にある水溜りへと足を運んだ。そして、日が落ちるまで居座った。
幸い、水溜りの場所は、駐車場であるものの、車が直接通る位置ではなかったため、ずっと覗き込んでいられた。
だが、連日、あまりにも長時間、同じ場所に居座り続けたため、警察を呼ばれることもあった。近所の誰かが、通報したのだろう。
その時は、苦し紛れの言い訳を行い、何とか警察をかわすことが出来た。また通報され、下手をすると、警察署へ同行を求められるかもしれない。だが、それでも止めようとは思わなかった。
水溜りの中の私を見ることは、今の私にとって、生き甲斐となっていた。これを止めることは到底考えられない。
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