拒食症の私と水溜りと

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 そこには、骨格に皮を貼り付けただけの、奇怪な肉体があった。浮き出たあばらに、陥没した鳩尾。ピンクのブラジャーに包まれた胸は、かろうじて突き出てはいるものの、他全てが、削げていた。  まるでヒエロニムス・ボスの絵から出てきたような、珍妙な皮の物体だ。  私は、痩せ衰えた体を見ながら、少し前から通い始めた、心療内科の医者の言葉を思い出していた。    「拒食症ですね」  目の前の眼鏡をかけた医者は、神経質そうな表情を顔に貼り付けたまま、私にそう言った。  私が心療内科の門を叩いたのは、体重が三十キロに近付き、生理も止まってからだった。  その頃はすでに、私は人目を引くほどやせ細っていた。誰がどう見ても、拒食症だとわかる。この医者は、それをもっともらしく口にしていた。  体重が三十キロを下回ると、突然死のリスクが高まるので、強制入院になるらしい。私はまだ、ギリギリ大丈夫なラインだったため、そこまではいかなかった。  「治療を行いましょう」  医者はそう言った。  私は、右手の指に発生している吐きダコを触りながら、どういった治療が行われるのか訊いた。  そこで医者が提示したのは、薬物療法だった。もしも、それで改善が見込めない場合は、認知行動療法へ移ると付け加えた。  そして、そこで診察は終わった。私は、何種類かの飲み薬を渡されただけで、その心療内科を後にした。     
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