拒食症の私と水溜りと

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拒食症の私と水溜りと

 朝から降り続いた雨は、夕方を過ぎ、夜になっても止む気配はなかった。  アパートの外からは、今も絶えず、小豆を撒いたような雨粒の音が聞こえている。時折、風が吹き、窓にも叩きつけられていた。  私は、日が落ち、地の底のような重い暗闇に覆われた部屋の中で、ベッドに潜ったまま、その雨音を茫然と訊いていた。  先ほど見た、蛍光塗料で光る壁掛けの時計は、午後八時を指していた。ちょうど昨日、夏至が過ぎ、日の長さは最長になっている。しかし、さすがに午後八時を過ぎると、真っ暗だった。  私はそれでも、部屋の明かりを点けようととは思わなかった。暗闇は全てを覆い隠し、見えなくしてくれる。醜いものや、邪悪なもの、劣悪なもの。  見たくないものを、見なくて済む。  私は、薄手の毛布の中で、寝返りをうった。鉛のような部屋の空気と同じく、体が重く、動かすのも億劫だった。  だが、少し前から、起きなければならない理由が生まれていた。  尿意に襲われていたのだ。今まで我慢していたものの、もう限界だった。さすがに垂れ流すわけにもいかず、起きるしかない。私は寝たきりの老人ではないのだ。     
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