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また地面に叩きつけられる……っ。
「うわああああああっっっ」
自分の絶叫の中、目を固く閉じたのもつかの間、落下は止まった。
「……あ」
目を開ければ、僕の腕を、先ほどの男が掴んでいた。
「どうだ。落ちる感覚は怖いだろう?」
自分の身体が小刻みに震えているのがわかった。
僕は何も言えず、目を伏せて唇を噛み締めた。
「恐怖は当たり前の感情だ。あの時、お前は極限状態で感覚が麻痺していたんだろう。いろいろな死を見ているから、それはわかる。でも、お前は許されないことをした」
男の言葉に顔を上げる。
見上げた先の男は、僕に背後を見るよう促していた。
彼が示す方向に首を捻れば、そこにあったのは、白いベッドに横たわる、白い布とシーツをかけられた物体。
……あれは……、人間………?
目を細めて思うと同時、扉が開いて、誰かが飛び込んできた。
「あ………」
僕の真正面で、その人は止まる。
僕も、その人の前で固まった。
「お母さん………」
室内に入ってきたのは、息を切らせた自分の母親。
職場から来たのだろう、喫茶店のエプロンを身に着けたままだった。
ゆっくりと立ち上がれば、母もゆっくりと動いた。
「あの……僕………」
けれど、母は僕に気づかない。
横を素通りし、ベッドに歩み寄ると、横たわる物体から白い布を持ち上げた。
母の後ろからそれを眺め、続くように現れた顔に息を呑む。
見えた先の顔は包帯に覆われ、目も鼻も口も見えず、誰なのかわからなかった。
「本当に、うちの子なんですか?」
包帯の顔に白い布を戻し、母は後から入ってきた中年の男に聞いている。
え? あれは、僕?
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