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母の言葉に驚き、ベッドに横たわる包帯人間をよく見るため、それを見下ろせる位置へ移動した。
そんな僕に続くように、中年の男が歩み寄る。
「屋上に残されていたカバンに生徒手帳が入ってまして。それから身元を辿った訳ですが。何しろ顔が潰れていますからね。他に、何か特徴がありませんかね」
母に向かって問い質す姿を見て、刑事なんだこの人、と僕は思う。
そして、ベッドの包帯人間を、改めて見下ろした。
「ああ………」
母の呟きが耳に入る。
シーツの中から腕が持ち上げられる。
僕は、息が詰まるのを覚えた。
「やめてっ。見せないでっっ」
叫んだが、母の動きは止まらなかった。
身を捩る僕の前で、母は刑事にそれを見せた。
「これ、この怪我。信じたくないですけど、やっぱりうちの子かも」
手の甲の真ん中につけられた丸い火傷。
熱さと痛みと、肉の焼ける匂いを思い出す。
―50万持って来たら、うちの病院で整形手術してやるぜ?
蘇る。
痛さで呻く僕に落とされた笑い声。
「……何をされたのか、息子さんから聞きましたか?」
「ええ。理科の実験中に、自分の不注意で薬品をつけてしまったとか……」
刑事は、母の顔と手の甲の怪我を交互に見、首を横に緩く振った。
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