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「やめてっ。言わないでよ、刑事さんっっ」
今度は、刑事に向かって叫んでみた。
けれど、やはり僕の声は届かない。
「こんなことは言いたくないんだがね。あんたの息子さん、どうやらいじめにあっていたらしいですな」
「え?」
「煙草と縁がないから思い当たらなかったんだと思いますがね。これ、火のついた煙草を押し付けられた痕ですよ。それにね、検視の結果でわかったんですが………」
「ああ………」
僕は後退りした。
ベッドの上の身体にかけられたシーツが、刑事の手によって捲くられる。
上半身に包帯を巻かれた細い肉体。
「やめてよ………。教えないでよ………」
包帯が巻かれていない部分にある痣の幾つかが、指で指し示された。
「教えないで……。僕は……お母さんを……悲しませたくない………」
僕は、さらに後退した。
「これに、これも。治りかけの怪我ですよ。息子さんの身体はね、見えない部分に無数の傷があったんです」
刑事の話を聞きながら色を失っていく母の顔。
滲む視界。
ぼやける世界。
聞かせたくなかったのに。
必死で守り通してきた秘密だったのに。
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