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「気の……迷い……なんかじゃ………」
呟いた唇がぶるぶる震えた。
どうして、あの時、母の顔が浮かばなかったのだろう。
どうして、黒い雲しか、自分には見えなかったのだろう。
がくがくと膝が震えた。立っていられなくなり、その場に膝をつく。ガクンと首が下を向く。
……あの人の言う通りかもしれない……。あの日、あの時。一歩前進したのは、ほんの一瞬の…………。
「自分の生を放棄する、それはとても簡単なことだ。でも同時に、とても悪い罪なんだ。生命を絶ったキミはそこまでの人生、しかし、共に暮らしていた人は、これから別の人生が始まってしまうんだよ」
男の言葉が、一つ一つ、胸に突き刺さる。
……別の人生……。
思いもしなかった。自分が天使になるなんて。
それと同じようなことが、お母さんにも起きるんだ。僕が傍にいない、たった一人きりの人生がお母さんに…………。
「あああっっっ」
頭を抱え、身体を二つに折る。
「ごめんなさいっ。ごめんなさい、お母さんっっ」
額を床に押し当て、僕は出せるだけの声を振り絞った。
天使になって、当然の結果だ。
大切な人の人生を狂わせておきながら、自分だけまったく新しい人生をやり直すなんて、そんな虫のいいこと、許されるはずもない。
「あああっっっ。ごめんなさいっっ。お母さんっ、ごめんなさいっっっ」
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