もう、着ないから。

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バスが一台進めるほどの狭い道路。 その道路にあるバス停でバスを待っていると、いつも目の前を自転車で過ぎ去っていく男子生徒がいる。 学ランに、サブバックを肩から斜めにかけた男の子。 いつも同じ時間に通り過ぎていく彼は、逢坂(おおさか)高校の生徒らしい。 もう、着ないから。 彼を見かけたのは、半年くらい前のことだった。 それまで学校まで歩いていたあたしが、バス通学に変えたその日、バス停に向かうと、1組の男女が言い合っていた。 バス停には、彼らしかいない。 「あたしは鷹臣と同じ大学受けるって言ってるの!」 「だから、何で?」 「少しでも鷹臣と一緒にいたいからに決まってるでしょ!?」 「一緒に? お前は俺と一緒にいるためだけに大学を選ぶの? やりたいことは? なりたい大人は? ねーの?」 どうやら、進路について言い合っているようだった。 彼女は彼氏とひと時でも一緒にいたいのか、彼と同じ大学を希望しているみたいだけど、彼はそれに疑問を抱いているらしい。 高校1年生のあたしは、最近受験の束縛から解放され、第一希望の学校に進学したのだ。 1年も2年も先の進路のことを今目の前で言い合われても、正直困ってしまう。 それより今日の小テストの勉強をしなくちゃ! 毎朝朝礼の後に行われる英単語のテストのため、サブバックから英単語を取り出そうとした時だった。 「一緒にいたいからっていう理由で同じ進路を選ぶ必要はないでしょ」 鷹臣と呼ばれた彼は、まるでハサミで縁を断ち切るように、バッサリと言い放った。 彼のその一言にツバをグッと飲んだ彼女の目には、涙が浮かび始める。 「俺はお前の将来が大切だと思うから、お前もちゃんと自分の進路を―――」 「鷹臣はそうやって正論ばっかりであたしの気持ちを汲んでくれない…もういい!!」 ぽろりと目からあふれ出た涙がほほを伝っていく頃、彼の話に耳もむけるのも拒絶した彼女は、踵を翻すと走って行ってしまった。
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