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2章
「あ」
二度と会うことはないだろうと思っていたら甘かった。
駅の階段を下りていると、この間の少年が入れ違いで階段を登ろうとしていた所に鉢合わせてしまう。
明るいところで改めて彼の容貌を見ると、耳はピアスだらけで制服もだらしなく着崩し、随分チャラついた外見だが、切れ長の目にスッと通る鼻筋の二枚目だ。私が固まっていると、彼はまるで知り合いであるかのように気軽に話しかけてくる。
「……一週間ぶりかな」
厚かましい性格らしい。同意も得ずに唇を奪った人間の顔を涼しい顔で眺めている。
「……なんなのよ貴方」
私はわざとつっけんどんに聞いたのだが、彼の返事は実に飄々としている。
「俺? 宮代響。高三」
「名前は聞いてないわよ……」
「なんでキスしたかって?」
私は固唾を飲んで頷いた。
「理由なら一つ、そこにアンタの唇が有ったから」
揶揄っているのだろうけど、愛想笑い一つ浮かべていない。
「そこに山があったから登ったみたいに言うんじゃないわよ」
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