2章

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「俺、巧かっただろ?」 「は?」 突然話題を変えられて私は間抜けな声を上げる。彼は「キスのことだよ」と付け加える。 「反応が良かったからな、あの時」 女のことは手に取るように分かるって? 「客観的な観点において好印象を抱いたという証拠は提示していない筈だけど」 「もっといいのも出来るぜ?」 この前のは触れるだったからな、と(のたま)ってきた。いいや、舌が入る寸前だった。 「スーツ着てっけど社会人か」 また突然話題を変えてくる。自由だな高校生。 「関係ないでしょ……就活よ」 「ふーん、どうりで馴染んでないと思った」 あんまり失礼なので私は文句を言おうとしたが、その後続いた言葉を受け、勢いが引っ込んでしまう。 「なぁ、俺たち付き合おうか」 何を言われたのか理解して、それに対する反論を導くのに少々時間を要した。 「……付き合う理由はないわ」 「なんか、相性悪くねぇみてーだし?」 「アンタしか思ってないわよそんなこと……っ!」 彼の手が私の髪を梳く。その手つきがどこか艶かしく、私の背筋にビリッと電流のようなものが走った。 「うっ!」 長い睫毛が伏せられたと思ったら、そのまま唇を当てがわれる。 少し首筋に力を込められて、ゾクゾクした。 拒むべきなのに、身体がそれを欲してしまう、あたかも麻薬のような危険な感覚。 「……ケーサツ呼ぶ?」 唇が離れ、彼は真黒な瞳で私を覗き込む。 少し甘えるような口調、女慣れしているのは明らかだ。私がそうしないことを、分かっている。 悔しいけれど……確かに身体、いや唇同士の相性は悪くないらしい。
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