怪人ニシキの一念発起

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 声のトーンだけはぐっと落としたものの、その語調は明らかにニシキを責めている。  詳しい経緯や状況こそ聞いてはいないが、彼がニカイドウに恋していることは本人から聞いていた。  彼女が生徒会長になろうとしていたので今まで一度も関わったことのない生徒会の副会長に立候補し、その行動力と下心だけで今の地位を勝ち取ったことも知っている。  ニノマエはニシキから口止めされていたので黙って見ていたが、これといった行動を起こすこともなくむしろ煮え切らない彼の態度には他人事ながら以前から釈然としないものを感じていた。  そこに今日の出来事だ。  今まで他人からの口出しは余計だと思っていたけれど、こんな調子ではいつまでたっても埒があきそうにない。 「自分は副会長だからとか、ニノマエは二年だし先に帰りなよとか、口の上手い先輩ならその気になればなんとでも言えたんじゃないです?」 「まあ落ち着いてくれ。なーに美味いものでも食ってちょっと話せば聡明なニノマエちゃんならパパっと理解してくれるような話さ。とりあえずそこの喫茶店にでも」 「お茶に誘う相手が完全に間違ってますが」 「ぐっ」 「どうせ、俺は今タイミングを見計らってるんだよ一発で華麗に決めるための絶妙なやつを待ってるのさー、とか言うつもりだったんでしょう」 「うごごご」  似てない声真似で図星を突かれてニシキが体を仰け反らせる。 「くっ、何故だ…まさか俺の心が読まれて…」 「先輩のこと最近なんとなくわかってきましたので」  得意げ、というよりは見下したような冷めた目でニノマエが見上げる。 「せっかく副会長になったのに今さら怖気づいたんです?一回や二回振られたくらいがなんですか。諦めなければ失恋じゃないとか言ってたの先輩ですよ?」  こういうタイプの男子はなかなか自分では動き出さない。今の彼氏と付き合い始めるにあたってそれなりに苦労したニノマエの見解だ。  ニシキにしてみれば余計なお節介かも知れないけれど、いつまでも彼の気持ちをひとに話せない秘密として抱えているのはニノマエにとってストレスでしかないのだ。  可及的速やかに解決して欲しいというのが率直な気持ちだった。  しかし彼女の叱咤激励に対して、彼は気まずそうに黙ってつつぅと視線を逸らした。その不可解な挙動に首を傾げる。
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