長閑に日々は移ろい行く

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「お兄ちゃん、最近修行がきついんとちゃう?」    登校準備を済ませて、玄関でもたもたと靴を履く俺に、妹の神流(かんな)が眉根を寄せて声を掛けて来た。    ま―、兄貴の俺が言うんもなんやけど……神流のこう言った表情も……可愛い!    あ―……因みに俺はシスコンやないし、神流もブラコンやない。ほんまや。   「そやな―……。俺等から言い出した事やーゆーても……ちょーっときついなー」    俺は、神流には嘘をつかんことにしてる。  ……っちゅーか、嘘付いてもすぐにバレるんや。嘘をつくだけ無駄やろ?   「大丈夫なん? 利伽さんも、なんや毎朝疲れてるみたいやし……。『お勤め』を派遣されてきた人達に変わってもらう程なん?」    お勤めっちゅーたら、毎晩この“不知火山”と“八代山”で寝ずの番をする事や。  理由なんか分からんかったけど、兎に角、代々俺等の家系では子供が10歳になったら、この山を出るか神職に就くまで続けなあかん決まりになっとるんや。    ……まぁ、今はもう理由も知ってるけどな。   「なんや俺と利伽は、何か特別な祭事やらなあかんよーになってなー。その為に必要な修行やからな―……」    うん、これは嘘やない。我ながら、中々良くできた言い訳や。   「でも……。そうや! 私がおばあちゃんに、もうちょっと手加減するようにゆーたるわ!」    満面の笑みで、そんな提案してきた神流は……可愛いな!  玄関で腰かけて靴履いてる俺に話しかけるため、やや前屈みになった神流の髪がサラ―ッと流れる。  中学から伸ばし出した髪は、もう随分長くなってる。  神流は……間違いなく美人になるっ! いや、もう既に美人やっ!   「まぁ……ゆーといて」    どーせあのばあちゃんが、神流に言われた位で手加減する筈もないけど、折角の神流が出してくれた提案や。  俺は僅かに笑顔を作ってそう答え、   「うんっ! 任しときーっ!」    神流は満面の笑みでそう答えたんや。  
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