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03.空手で折れるのはバットまで
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坂を下りる勢いを利用して猛ダッシュし、人面樹の右斜め後方から駆け寄っていく。この角度ならば、やつから俺の姿は見えないはずだ。
俺は人面樹のすぐ傍まで接近すると、妖精を捕らえている枝を右手で下からすくい上げつつ、その根元に左の手刀を振り下ろした。
「うりゃっさぁぁ!」
―― めぎゃっ! ――
文字通り生木が裂けた音がして、妖精を捕らえていた枝は真っ二つにへし折れた。
やった、狙いどおりだ。
人面樹の枝は野球で使われるバットのグリップほどの太さだったが、俺はその動きの滑らかさを見て、それがさほど堅くはないと予想していた。下から手を添えてテコの原理で力を加えてやれば、未熟な俺の技でも十分に折れると思ったのだ。
折れた枝は魔法が解けたかのように力を失い、ただの木となってバサリと地面に落ちた。それと同時に拘束が緩み、妖精が枝の先から抜け出す。
「ほら、さっさと逃げろ!」
俺はぶんぶんと手を振って、妖精に逃げるよう促した。
別にこの化物の息の根を止める必要はない。この羽虫もどきさえ逃がせば、あとは自分もこの場を離れてしまえばいいのだ。
「グォゴゴゴゴゴゴゴ…………!」
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