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声が大きくなってくると同時に、さらに後ろからバキバキメキメキと、細い枝を踏み折るような音まで聞こえてくる。これは相当重い何かがこちらに向かって来ている証拠だ。
(おいおい、熊どころかサイか象でも走ってくるのか?)
木の陰から覗き込むと、森の奥から巨大な何かが迫ってくるのが見える。それはあまりにも大きく、そして動物ですらなかった。
動く大樹――俺が見たものはそれだった。信じられない話だが、高さ3~4メートルはあろうかという樹が、根っこの部分を蛸の足のように蠢かせながら走ってきたのだ。
「な……!」
よく見ると、動く樹の幹には2つの目や口らしき裂け目があり、そこから牙まで覗いていた。いうなれば人面樹というところか。
さらに俺を驚かせたのは、走る人面樹の少し先を飛ぶ生き物だった。背中から翅の生えた小さな人間――葉っぱで作ったかのような緑の服に身を包んだその姿は、いわゆる妖精というやつだ。
見たところ妖精らしき生き物の体長は15~20センチほどしかなく、まるで人形のようでもある。だが背中の翅を必死に羽ばたかせて逃げ回る様は、まさに生物としか言いようがない。
あまりのことに俺は口を開けたまま言葉を失った。CGでも使わなければあり得ないような光景が、今まさに目の前で繰り広げられているのだ。
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