03.空手で折れるのはバットまで

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 枝を折られた人面樹が怒ったような声を上げてこちらを振り向く。しかし相手がキレて本気を出してくるのを悠長に待つなど、喧嘩においては愚の骨頂だ。  俺は樹に目印をつけるのに使っていた石をポケットから取り出すと、やつの右目にそれを思い切り突き刺した。さらに深く食い込むよう、そこに靴底で蹴りを食らわせる。 「せぃいっ!」  ―― ドギュッ! ――  「グォォォォォォォォ!!!」  緑の目玉から毒々しい紫色の血を流し、森中に響くような声で人面樹が叫ぶ。  これで右目と右腕(?)は封じた。あとは潰した目のほうへ回り込んでやれば、こいつは俺の姿を一瞬見失うはずだ。  俺は左前方に跳んで人面樹の死角に入り込むと、そのまますれ違いつつ森の奥へとダッシュした。   (あの妖精もちゃんと逃げたみたいだな……よし、あとはこっちも逃げの一手だ!)  数百キロはありそうな体重のせいか、さっき妖精を追いかけていた人面樹のスピードはそれほど速くはなかった。少なくとも、人間が全力疾走すれば十分に逃げ切れるはずだ。  このまま体力の限界まで突っ走って、やつを完全に振り切ってしまおう。それでも森から抜けられなかったら、またどこかの木陰にでも隠れてしばらく休めばいい――そう思いつつ走っていた俺の目に、とんでもない光景が飛び込んできた。 『グゴゴゴゴゴゴゴ……』     
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