03.空手で折れるのはバットまで

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 とはいえ武術家には、いや男には、絶対に勝てない相手だからといって『諦める』という選択肢は存在しない。どうせ戦わなければ喰われるのだ。ならば精一杯抵抗して、せめて俺を獲物と認識したことを後悔させてやる――そう決意し、俺は目の前の敵をどう倒すべきか考え始めた。 (狙うなら弱ってる後ろのやつだが、幹を攻撃しても無駄だろうな。まずは腕代わりの枝をもう1本へし折って、あとは素手でも攻撃が通りそうな目を狙おう。上手くもう片方の目を潰せれば、なんとか逃げ切れるかもしれん)  作戦は決まった。  俺は前の2匹に動かれるより先に後ろを振り向くと、背後にいた手負いの1匹に向かって再びダッシュした。  先ほどと同じように敵の右側へと走り、潰れた目の死角に入り込む。こちら側は腕にあたる枝も折れているので、攻撃される心配もない。 「グォォォォーッ!」  俺の姿を見失わないよう、人面樹も右へ回ろうとする。俺は円を描くように動いて、さらに死角へと回り込んでいく。  そんなことを数回繰り返したところで、人面樹は逆の左回りに振り向こうとした。この状況を嫌がった者が(おちい)りやすいパターンだ。 (そう動いてくれるのを待ってたんだよ!)  死角への回り込みに対して逆方向へのバックスピンで向き直ろうとするのは、相手がそれを警戒していない限り不意打ちを食らわせるチャンスにもなる。だが、俺のようにその攻防に慣れた者にとってはただの隙だ。     
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