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4本の指をぴんと伸ばして相手に突き刺す貫手という技は、試合で使われないのはもちろん、本来なら自分よりも体重のある相手や硬いものに対しては使えない。己の指がまさに刃と化すまで鍛えた達人ならばともかく、そのような技を練習する機会もほとんどない最近の空手家、しかも初段程度の腕前では突き指をするのがオチだからだ。
今の技はそんな未熟者でも使えるよう、俺が編み出した独自の貫手――その名も鏃貫手だった。中指の下に人差し指と薬指を沿わせ、正面から見たときまさに鏃の形になるよう3角形を作る。そうやって3本の指を束ねた中心に向けて力を込めることで、上下どちらにも指が折れないようサポートするのだ。
―― ズズゥゥゥン…………! ――
暴れていた人面樹は痛みのためか大きくのけ反り、ついに仰向けに倒れ込んだ。
「っしゃあ!」
まだ根っこの部分がウゾウゾと蠢いているので、どうやら死んではいないらしい。とはいえこの巨体では、少なくともすぐに起き上がることは不可能だろう。
(よし、チャンスだ! 今ならあいつの脇をすり抜けて逃げられる!)
空手の技が意外にも効いたとはいえ、こんな化物を1匹でも倒せたのは幸運というしかない。逃げ道が開けた以上、これ以上の戦いは無意味だ。
俺は残った2匹を放置し、その場から逃げようとした。しかしなぜか足が地面に張り付いたまま動かない。
「くぉっ?」
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