05.魔法使いの一族と女神の涙

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 広い石畳の道と、その左右に建ち並ぶ家々。ほとんどの建物は壁が漆喰(しっくい)で塗られているか、もしくはレンガ造りだった。一見ヨーロッパ風の町並みだが、建物のデザインそのものはかなり簡素で、むしろTVで見たエジプトのスーク(商店街)のような印象だ。  俺は物珍しそうにあちこちを見渡していたが、目にするものの中で特に驚いたものがあった。  獣のようなフサフサの毛に覆われた耳と尻尾のある人間――いわゆる『亜人』とか『獣人』呼ばれる人種だろうか。目の前を軽く見渡しただけでも、街中を行き交う人々の2割ぐらいはそういった者たちだったのだ。  他にも長く尖った耳を持つ金髪の女性や、顔は中年なのに身長だけが子供のように小さい人間もいた。あれはおそらく、漫画やゲームでよく見かけるエルフやドワーフといった種族かもしれない。 (うーん、獣人ってのを実際に見たのは初めてだが、見事なモフモフ感だな。耳や尻尾の生え際がどうなってんのか見てみたいもんだ)  俺が元いた世界であっても、写真でしか見たことのないものを実際に目にするとテンションが上がってしまうものだ。  まるで京都観光で初めて舞妓さんを目にした修学旅行生のような気分というべきか、映画村で侍や忍者の格好をしたスタッフを見た外国人の気持ちというべきか。俺は自分の置かれた状況をしばし忘れて、謎の高揚感に包まれていた。 「トウマ、何をボケっとしてるの?」     
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