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「ウチの流派は試合じゃ使えないような技が多いんだよ。親父も俺と同じで元々あまり才能なかったからな。空手で勝てない相手には柔道の投げ、柔道で勝てない相手にはムエタイの肘――ってな具合に色んな格闘技を取り入れて、相手の知らない技で実力差をひっくり返すのがコンセプトなんだ。こっちの道場に通ってるのも、近代的なフルコン空手(※ 練習や試合で攻撃を寸止めせず、直接当てる空手)の技を取り入れるためさ」
「そうか、だから燈真はルールのある試合じゃ実力が発揮できないんだね」
「けど、こっちはまだ『スポーツ』で済むからな。家で親父にしごかれるより100倍マシだ。お前もウチの道場に入門しようなんて思うなよ? 稽古の後にはゲームで遊ぶ体力なんて残らないし、疲れて勉強もできないから間違いなく馬鹿になるぞ」
「あはは、そうだね。遠慮しておくよ」
他愛もない冗談を言いながら2人で笑い合う。
亮と友達になって以来、俺は空手を教える代わりにこいつからも色々なことを教わった。親父の教育方針で触れさせてもらえなかった漫画やゲームの楽しみ、それにまつわる様々なオタク知識などだ。
はっきり言って雑学の類だが、俺にとっては珍しい知識ばかりだったし、武術に応用できることだって少なくはなかった。そうやってお互いが持っていないものを与え合ううちに、いつしか俺たちはすっかり親友になっていたのだ。
「次の大会は1年後だな」
「うん」
「それまでにもっと稽古して、次こそは決勝でお前と戦うよ」
「うんっ、約束だよ」
「じゃあ、また明日な」
お互いに拳を合わせ、振り向いて別々の方向へと帰っていく。
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