Ⅰ オレの救世主はまさかの同じ教室内にいたらしい

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 正直に洗いざらいぶちまけるなら、あんなおぞましいイベントを本気で楽しみにしてるような奴の頭は、狂ってるとしか思えない。  小学時代も中学時代も、この鬱イベントが近づいてくるたびに、心が地面にのめり込みそうな勢いで沈んだものだった。  どうにかこの鬱イベントを回避すべく、オレは体育祭の前日が訪れるたびに、ありとあらゆる雨を呼び寄せる儀式を行ったものだ。具体的には、てるてる坊主を逆さにつるしまくり、雨乞いのダンスを踊りまくった。この他にも、効果があると耳にしたものは藁をもすがる気持ちで全力で試してみたが、結果は惜しくも惨敗だった。  当日はいつも、どうにかして雨を呼び寄せようとしたオレを嘲笑うかのように、太陽が眩しく笑うんだ。忌々しい思い出だ。消し炭にして葬り去りたい。  今の高校に入学してからは、もうすぐで一か月と少し経つ。  目の前の倉田と百瀬は、入学したての頃に仲良くなった。  初っ端から、教師に目をつけられるか否かの際どいラインを試すように金に近い茶色に髪を染めてた倉田と、派手なネイルを決めてきた百瀬は、正真正銘のアホで悪目立ちしていた。そして、オレはといえば、ちゃらいという言葉を体現するかのように生きているこいつらに対して親しみを覚えてしまった。  つまり、同類なのだ。同じ匂いを感じてしまった。  ためしに声をかけてみたところ、思った通り、気の良い奴らだった。  二人ともバカみたいに明るくて、すぐに意気投合して仲良くなった。つるむようになってからはまだ日は浅いが、これでも、奴らの人格は保証できる。  が、しかし。  唯一、体育祭を楽しみにするというこの習性に関してだけは、解せない。オレにはどうやっても理解できそうにない。いや、理解はできるけれども、共感はできないといったほうが正しいのかもな。  きっと、倉田や百瀬みたいな恵まれた奴らにはオレの苦悩は一生理解できないのだろう。  一抹の淋しさが胸によぎったその時、ふと、どこからともなく視線を感じた。  直観的にそっちの方へ振り向いたら、廊下側の一番前の席に座っていた女子が、恐々とオレら三人の様子を伺っていた。  肩下あたりで真っ直ぐに切りそろえられている黒髪が、印象的な子だった。長い前髪が顔を隠していて、いまいち表情が読み取れない。髪の黒さと対をなすような肌は真っ白で、このまま透けて消えてしまいそうな程だ。
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