Ⅰ オレの救世主はまさかの同じ教室内にいたらしい

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 あの席ってことは、出席番号一番のはず。  名前はたしか……なんだっけな。ダメだ、全く思い出せない。  見つめあうこと、数秒間。  ん? と首を傾げてみると、彼女はぎょっと肩を跳ね上がらせて、華奢な身体を小刻みに震わせた。  その激しい狼狽ぶりにあっけにとられていたら、続いて即座に視線を外される。そのまま、ガタリと派手な音を立てて立ち上がったかと思ったら、彼女はそそくさと教室を出ていった。  えっ。  まるで、幽霊でも見てしまったかのような徹底的な拒絶ぶりに、呆然。 「ちょっと、速水! アタシの話聞いてた?」  「どー見ても、聞いてなかったな」 「なあ」 「何よ」  こいつらのどうでもいい話どころじゃない。  これは、紛うことなき事件だ。  自分で言うのもなんだが、オレの高校生活の幕開けは華々しかった。  良い感じに着崩した制服に、ほとんど金に近い茶髪。  不良とまではいかない絶妙な匙加減のちゃらさと、元々そう悪くはない面、人当たりの良い性格があいまって、気がつけばあっというまにクラスの人気者キャラに押し上げられていた。  つまるところオレは、どの学校のどのクラスでも必ず水面下で行われているカースト戦争で、見事勝利を収めたのだ。   正直、初見で人から舐められたことはまずない。  だからこそ、衝撃的だった。  名前すら知らなかったような女子に、まるでGに遭遇してしまったかのような塩対処を下されたことが、ショックで信じられなさすぎた。  たった今主のいなくなった空っぽの勉強机を指差し、ひそひそ声で確認する。 「あの子、名前なんだっけ?」  二人ともにぎょっとされた。  特に、百瀬の、マスカラに縁どられた瞳なんて、ぱちくりと驚いてる。  さらりと聞いたつもりだったが、そんなに驚くことか?  「はーん……速水って見かけによらず、あーゆう大人しい子がタイプだったんだ」 「はあ? ちげーよ。ただ、目が合っただけで拒絶されたから、ちょっと気になっただけで」 「……あー、そっか。今日、雨が降ったのは、あの子のせいだ」 「は?」  グロスの塗られた唇から漏れた不審な呟きに、きょとんとするオレと倉田。  いつにも増して真剣な面構えになった百瀬は、顔を近づけてひそひそと耳打ちした。 「……雨宮 琴音。普段は超陰薄いから今の今まで忘れてたけど、今日雨降ったのも、絶対あの子のせいに違いないよ」
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