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昔も今も
絵の具のにおいが充満する美術室は、校舎の端っこ
渡り廊下で繋がれた別館の体育館と自転車置き場に挟まれた
生徒には、身近な教室だった
夏場の暑苦しさを紛らわす為にすべての窓は、全開で
体育館からは、バスケ部のボールがはねる音と
きゅっきゅっというグリップの音が心地よい風鈴の様だった
汗臭い青春も誰かに恋する声援も無縁の美術部
「夏のインターハイ、優勝した。お前の事を考えながら試合したんだ。
俺、決めてたんだ。優勝したら告白するって・・・・俺と付き合ってくれ」
「・・・・先輩」
全開の窓から聞こえる青春の声など私には、無縁だった
今でも思い出す
それほどまでに衝撃的なシーンだった
そのインターハイで優勝して告白をした
谷崎先輩は今、目の前で私の部屋を掃除している
先輩は、仕事場兼自宅の合鍵を持っているのでいつでも入ってくる
仕事に取り掛かると周りが見えなくなる癖がある私は
先輩が入ってきたことにも気付ずにいる
ひと段落した
と背伸びをするといつもそこに先輩がいた
最初の方は、びっくりしたが
最近では、なれてきた
バスケ部エース
人気者でモテモテの先輩
高校時代の先輩のイメージで止まっている私からしたら
それだけで先輩は、神様のようだった
そんなお方が編集者で自分の担当となり
自分の部屋にくると聞いた時には、意地でも部屋を片付けようと
奮闘したがすぐに心が折れた
折れたというより時間が無かった
それでなくても多忙なので
私には、掃除をする時間をつくること自体が困難だった
私の今の状況は、女性としては、終わっている
いや、昔も今も恋愛なんて無縁だ
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