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雨が降り注ぐ中に、きらりと光るものがあった。
それを捕まえようと手を伸ばすと、そのきらきらは
――やあやあ、見つかってしまったかね!
そう笑ってひょいっと飛んだ。
雨の中のきらきらはそれからも僕の前に度々現れて、シルクハットとステッキを持ったまったく紳士な姿で僕を驚かせる。
きらきら輝いているそれの正体はよく分からないままに、僕はそれに振り回されることが多くなった。
きらきらと輝きながら、そいつは、時には意地の悪そうな、いや、何か含みを持ったような笑みを浮かべて、僕に挨拶をする。
そいつのことを眼で捉えているのは僕だけなのだろうか、悪びれた様子もなく、無邪気そうにきらきら笑うその笑顔は、紳士然とした姿とは随分おもむきが異なる。
そいつは何度何度も、僕の前で笑いながら、けれど少しずつ雰囲気が異なっていった。
なんというのだろう、輝きを増していると言えばいいのか。
きらきら、が、きらきらきらきら、になって、そいつを目に捉えるのも眩しくなってくるくらいだ。
そうしているうちに、ある日、そのきらきらのそいつは、
――ああ、そろそろお別れの刻限ですな。
そう言ってにやっと笑った。僕が不思議そうに首をかしげると、
――ではまた、来年。
そう言って消え失せた。
あまりのまぶしさに一瞬目を閉じたが、もう一度目を開けると誰もおらず、ただ大きな虹が遠くに架かっていて、
あ、あいつは虹だったのか、
僕はそう合点がいった。
おまけを言えば、その日、梅雨が明けた。
梅雨明けを告げる虹だったのだろうなと思うと、来年の梅雨が今から待ち遠しくなってしまった。
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