自由を求めて

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自身の"故郷"とも言うべき家を飛び出し、 蛍は海を見るため、 ひたすら歩き続けた。 初めて見る外の世界。 あの家で想像した山の向こうには また別の山と家屋、そこに暮らす 人々の営みがあった。 途中で道を聞きながら、1歩1歩 海に向かって確実に進んでいく。 山中を貫く国道を道に沿って歩くこと 数時間。 視界が開け、あまりの眩しさに 蛍は一瞬目が眩んだ。 右手で光を遮りながら、ゆっくりと 目を開ける。 そこには…… 「すごい……これが、海……」 蒼と白を混ぜ合わせた絵の具を 塗りつけたかのようにどこまでも 広がる青い絨毯。 宝石のように透き通った海面は、 太陽の光を反射してキラキラと輝き、 まるでお花畑のようだ。 蛍は言葉を失い、呆然と立ち尽くした。 人生で初めての海。 それは想像していたよりも、本で見たもの よりも、ずっと幻想的で美しかった。 しばらくすると、蛍はまた歩き出した。 歩道から浜辺へ降り、海岸線へ。 海水浴のシーズンはとっくに終わり、 秋の浜辺は閑散としていた。 近くの国道を通過する車のエンジン音と、 海岸に打ち付ける波のコーラスだけが 蛍の耳に届く。 数キロに渡って続く海岸線はなだらかに 右にカーブしていて、先端には 町が見える。
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