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日没まで蛍に残された時間は
決して多くない。
夜になれば周囲は漆黒の闇に
支配され、犯罪や事故に巻き込まれる
危険性が高まるということを
彼女は重々承知していた。
しかし、このままこの場に留まっていても
どうすることもできない。
日中、透き通るように青かった空は
既に紅に染まり始めている。
蛍が腰を上げ、立ち上がろうとした
その時だった。
「おい、こんなところでいったい
何をやってるんだ?」
声のする方を振り返ると、そこに
立っていたのは、スポーツブランドの
ジャージに身を包み、野球帽を被った
長身の男。
まだ若い。年齢は20代後半といったところか。
「……」
「もうすぐ日没だが……お前、名前は?」
「……蛍。宮野蛍です……」
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