自由を求めて

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「そうか……」 土手と国道の境目に ふたりの男女が腰を降ろしている。 陽 は完全に落ち、カーブを曲がる 車のヘッドライトですら 蛍は眩しく感じた。 日没までの間、蛍は一連の出来事のいきさつを その男に話した。 男は蛍の話に一切口を挟まず、 時折小さく頷くのみだった。 「話はわかった。 だが、君をこのままここに放置する わけにもいかない。」 その言葉を聞いた瞬間、 蛍の脳裏をある映像が駆け巡った。 男が警察に通報し、パトカーに 乗せられる自分。 警察の調べで身寄りがないことがわかり、 監獄に等しい施設に入れられる…… 「警察にだけは通報しないで! やっと、やっと自由になれたのに……」 言葉を選ぶ余裕なんてなかった。 考えるよりも言葉が先に出ていた。 必死に懇願する少女に、 男は白い歯を見せた。 それは蛍が初めて目にする男の 笑った顔だった。 「なら俺がなんとかしてやる。 ただし、自由を掴みとれるかどうかは お前さん次第だ。」 蛍は力強く首を縦に振る。 これから先、どんな困難が待ち受けていようと きっと乗り越えてみせる。 なぜなら、私は今、自由だから。 昼間と変わらぬ波の音が 海岸に打ち付ける。 暗闇の中、車のライトが照らす道を ふたりは歩き出した。 2021年、木々が真っ赤に染まった 秋のことであった。
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