空母いずも

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中国人民解放海軍が第一列島線を突破し、 太平洋への進出を頻繁に行うように なってからもう5年が過ぎようとしている。 2020年10月、東京オリンピックの 興奮が冷めやらぬ中、衝撃的なニュースが 世界を駆け巡った。 ――中国国家主席死去―― 圧倒的カリスマ性とリーダーシップで 中国共産党のトップに登りつめ、 憲法改正によって国家主席の任期を撤廃し、 独裁体制を敷いた前国家主席が 脳卒中で急逝したのだ。 その後、中国国内では、後継者の地位を 巡り、半ば内戦のような混乱が生じた。 これまで抑圧され続けてきた民主化運動や 暴徒化した貧民層による破壊活動が 各地で発生し、北京郊外での学生デモの 参加者は1000万人を超えた。 そんな中、学生たちの民主化運動を抑え込み、 政争に勝利して国内を掌握したのが、農村出身の 国家副主席王元竜であった。 貧しい農家の家に生まれた彼は、 猛勉強の末、北京の大学に合格し、 共産党へ入った。 陸軍や地方の有力者たちに太いパイプを 持つ彼は、内戦及び米国との貿易戦争 で乱れた国内を 立て直すことを第一に掲げた。 これまでの経済発展、 海外との生産競争の果てに置き去りにされてきた 内陸部への投資や 他国資源に依存しない再生可能エネルギーの 推進、社会福祉の拡大など、 前国家主席によって強引に進められてきた 海外進出第一主義を転換し、 内需拡大による国家財政の改善を推し進めた。 前国家主席が米国に対抗するために 釣り上げた税率を引き下げ、 雇用の安定を図った。 中央アジア、中東の情勢不安や、 イギリスのEU離脱、難民の流入と 相次ぐテロによる市場の混乱で 欧州の影響力が低下したことなどもあり、 中国覇権主義の象徴とも言える一帯一路構想も またその見直しを迫られた。
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