空母いずも

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2025年7月、いずも以下第一護衛艦隊群8隻は 2週間に渡る外洋訓練を終え、横須賀港、 逸見岸壁にその錨を降ろした。 今年の夏も去年に引き続き、 災害的な猛暑となっているが、 小高い丘に囲まれ、海に面した横須賀の 気温はその限りではない。 いずもの265mにもなる広々とした第一甲板。 その両側にはキャットウォークと呼ばれる 通路が設けられており、 そこにひとつの人影がある。 その横顔は、4年前、 京都で身寄りのない少女を助けた あの男のものだった。 「結城」 自身の名前を呼ばれ、男は後ろを振り返る。 背の高い、細身だが筋肉質の男が そこに立っていた。 被っている紺の帽子には "falcon"の文字とハヤブサのマークが 描かれている。 「清水か。」 結城に清水と呼ばれた男は 甲板からキャットウォークに降り、 結城と同じように海を見つめた。 左手側では、いずもと艦隊を組む DDてるづきやDDGたかおが 静かに羽を休めている。 「どうだ?艦艇勤務は?」 「まさか、空自に入って艦艇勤務を させられるとは思わなかった。」 「そりゃそうだな。」 そう言って結城は苦笑した。 清水は怪訝な表情を浮かべている。 何が面白いのかわからないという具合だ。 「だが、まさかお前と同じ職場で 働くことになるとはな。夢にも思わん。」 「ああ、俺もだ。」 結城は空を見上げ、3年前の夏を 思い出した。 あの夏も焼けつくような暑さだった。
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