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「あの山の向こうに行きたいかい……?」
祖母は、すっかり痩せ細ってしまった
皺だらけの顔を向けて微笑んだ。
その傍らに正座し、背筋を伸ばした蛍は
祖母の目を見据えて大きく頷く。
縁側から寝室に差し込む西日が
ふたりの空間を優しく包み込んでいた。
蛍は時折涙を浮かべながらもそれを
拭い、その度に誤魔化すような咳をした。
幼い頃からたったひとりの家族だった
祖母の命が、消えようとしている……
13歳の少女、蛍が育ったのは京都郊外の山中にある、木造平屋建ての古い家だった。
屋根を支える柱や梁はところどころ
変色し、嵐が来た日には
玄関の扉や雨戸が悪魔の来訪を告げるかの如く
ガタガタと音を立てた。
彼女は自分の父親にも母親にも
会ったことがない。
幼い頃、祖母に母がいつ帰ってくるのかを
尋ねると、必ず蛍が良い子にしてたらね、と
返された。
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