6人が本棚に入れています
本棚に追加
だから、この世で生きていくための知恵、
知識は全て祖母が教えてくれた。
掃除、洗濯、お料理、裁縫、食事のマナー、
夕陽が綺麗な日の翌日は晴れることを
教えてくれたのも祖母だった。
「蛍、貴女はお父さんもお母さんも
いないのに、本当に手のかからない子で、
こんなに立派に育ってくれたわ……。」
蛍は首を横に振った。
彼女の我慢だけではない。
祖母が精一杯の愛情を蛍に注がなければ、
今の自分はいなかったのだと
蛍は伝えたかったのだ。
「最後に……私から貴女に伝えなきゃいけない
ことがある……聞いてくれるかい?」
今度は大きく首を縦に振る。
祖母はそれを確認して笑みを漏らすと、
ゆっくりと言葉を絞り出した。
「蛍、後ろのタンスの一番上から
あの箱を持ってきてくれるかい?」
"あの箱"と言われて蛍はすぐにわかった。
小学生の頃、たまたま見つけて開けようと
したところ、祖母からきつく叱られた
ことをよく覚えている。
『私がいいと言うまで決して開けては
いけないよ。開けたら呪いで寿命が
縮んでしまうからね。』
今思い返せば、祖母には、蛍が
小学生でタンスの一番上に
手が届くようになるとは
想定外だったのだろう。
実際蛍の背は同級生と比べても高い方だった。
最初のコメントを投稿しよう!