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蛍は祖母に言われたとおり
箱を枕元に置いた。
ちょうどお弁当箱と同じくらいの
大きさで、表面は少し埃を被っている。
「開けていいわよ。」
祖母の言葉に蛍は頷くと、
緊張でひきつった面持ちで
箱の上蓋を持ち上げた。
「……すごい」
奥が透けて見えるかのような
無色透明を基調に、少し赤みがかった羽。
硝子細工で作られた蝶の簪が
まるで眠っていたかのように箱の中に
横たわっていた。
「それはうちに代々伝わる大切なもの。
私も、貴女のお母さんも、結婚する時は
その簪を着けたのよ。」
「これ、持ってみてもいい?」
祖母が小さく頷くのを確認し、
蛍は恐る恐る簪に手を伸ばした。
決して重量が大きいわけではない。
にも関わらず、ずっしりとした重みが
右手から全身に伝わるのがわかる。
それは何十年、何百年にも渡って
受け継がれてきた歴史なのだと
蛍は幼いながらに受け止めていた。
「貴女もこれから先、誰か大切な人と
結ばれる機会が訪れたら、その簪を
使いなさい。それがこの家に生まれた
女の使命。いいわね?」
蛍は寝ている祖母の目を強く見据え、
力強く首を縦に振った。
その瞳から強い決意と覚悟を
受け取った祖母は、満足した様子で
ゆっくりと目を閉じた。
そして二度とその目を開くことはなかった……
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