自由を求めて

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翌朝、押し入れの中から、 去年小学校の遠足で使ったリュックを 持ち出した蛍は、これからどうしても 必要になると思われるものを リュックに詰め込み始めた。 遠足といっても山の中を少し歩き、 お握りを食べるだけだ。 小学校自体が山の中にあるのだから、 それ以上を求めることは無意味だと 蛍もわかっていた。 それでも、祖母に用意してもらった まだ新しいリュックは十分な容積がある。 パン、冷たい水を満タンにした水筒、 パンツと着替えのジャージ、 お気に入りの本、そしてお金。 祖母が遺してくれた1万円札20枚。 これだけあれば節約すれば海までは 行けるだろう。 じゃあ海に行って、その後は? またここに戻って来てひとりぼっちで 暮らすのか? 考えても結論など出るはずもない。 「海が見たい」 その純粋な想いだけが悲しみに沈む 彼女を突き動かしていた。
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