冷たい毒飲料をどうぞ

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「私、当日に大事な商談を抱えておりまして。ゆくゆくは独立も考えておりましたので、人脈を作るチャンスとも考えておりました」 「はあ」 「ところが急死してしまった。私は何とか、代わりの体でもいいから商談に駆けつけられないかと思い」 「え?」 「代わりの体を手に入れる機会を伺っておりました」 「は?」  八月晦日(はつみ)は、畳に付くくらい頭を下げた。 「お願いです。あなたの体を、私に譲ってください!」 「何言ってんですか。訳分かんないです!」  咲子はきっぱりと言った。 「始めは、咲子さんが自然死してくださるのを、ここでじっと待っておりました。しかし、なかなか死んでくださらない。そこで、思い切ってお友達に協力していただきました」 「は?」  咲子は、眉を寄せた。 「先日いらっしゃったお友達に取り憑いて、ミネラルウォーターに、毒を盛らせていただきました」  咲子は、無言で首だけを動かし、先ほど飲んだミネラルウォーターのペットボトルを見た。 「何それ。どういうこ……」  だからミネラルウォーターを飲んだ直後におかしくなったのか。  咲子は、混乱した。  今、自分は、何に巻き込まれているのか。 「正直、毒の入手には苦労いたしました。私が勤めていた海山商事であれば、毒物のひとつやふたつ、こっそり輸入するのは簡単なのですが、咲子さんのお友達は、携帯ショップの店員さん。どうにか足の付かない毒物の入手経路はないものかと取り憑き続けましたところ、通勤途中に、とある植物を発見いたしまして。私はこの植物のオレアンドリンなら、致死量は青酸カリよりも極少量で済み、いけるのではないかと」 「うるさいわよ!」  よく分からん講釈を垂れられてる間に、咲子はじわじわと理解した。 「つまり殺人じゃないの!」 「誠に申し訳ないと思っております」  八月晦日(はつみ)は握りこぶしを両膝の上に置き、痛み入るように礼をした。
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