5人が本棚に入れています
本棚に追加
「咲子は、彼氏とかはいなかったはずです。それ、ちょっとおかしいです」
若いというより、幼い感じの女性の声が答えた。
咲子は戸惑った。
携帯ショップ店員の友達だ。
連絡が付かないから様子を見に来たんだろう。
八月晦日が、座ったままそちらに顔を向けた。
「咲子さん、彼氏いませんでしたっけ? 引っ越しのとき手伝ってくれてた男性は」
「あのあとすぐ別れたの! 他人の私生活を、知った風に言わないで!」
咲子は声を張り上げ気味に言った。
何しれっと言ってんだろう、この人。
あのドアの向こうの友達を利用して、殺人やらせたんでしょうが。
玄関のドアが開いた。
「うっ、何だこの臭い」
大家さんは、開けた途端、口と鼻を手で覆い後退った。
友達がドアの縦枠に手をかけ、身を乗り出した。
二、三回視線を左右に動かし、小さなたたきで急いで靴を脱ぐ。
「咲子 ?! 咲子!」
友達は咲子の遺体に駆け寄った。
しかし、神経が少々ダメージを受けて、そこで、ううっと口を抑える。
「け、警察、警察」
「使いますかっ」
友達は、口を抑えながら自分のスマホを差し出した。
大家さんは、友達のスマホで通報した。
おろおろした口調で状況を伝える。
言ってる内容に、自分側に落ち度はない、このことはあまり報道しないで、という言い分が垣間見えて、咲子はイラついた。
大家につかつかと近付くと、腰に手を当て声を張り上げた。
「ちょっと、あんたねえ、そんなこと言ってるところじゃないでしょ! あんたがちゃんと告知しないから、こんなことになったんじゃない!」
「咲子さん、電話中ですよ、静かに」
八月晦日が横から口を挟んだ。
「なに他人ごとみたいに言ってんのよ、あんた!」
咲子は八月晦日を怒鳴り付けた。
最初のコメントを投稿しよう!