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「咲子は、彼氏とかはいなかったはずです。それ、ちょっとおかしいです」
若いというより、幼い感じの女性の声が答えた。
咲子は戸惑った。
携帯ショップ店員の友達だ。
連絡が付かないから様子を見に来たんだろう。
八月晦日が、座ったままそちらに顔を向けた。
「咲子さん、彼氏いませんでしたっけ? 引っ越しのとき手伝ってくれてた男性は」
「あのあとすぐ別れたの! 他人の私生活を、知った風に言わないで!」
咲子は声を張り上げ気味に言った。
何しれっと言ってんだろう、この人。
あのドアの向こうの友達を利用して、殺人やらせたんでしょうが。
玄関のドアが開いた。
「うっ、何だこの臭い」
大家さんは、開けた途端、口と鼻を手で覆い後退った。
友達がドアの縦枠に手をかけ、身を乗り出した。
二、三回視線を左右に動かし、小さなたたきで急いで靴を脱ぐ。
「咲子 ?! 咲子!」
友達は咲子の遺体に駆け寄った。
しかし、神経が少々ダメージを受けて、そこで、ううっと口を抑える。
「け、警察、警察」
「使いますかっ」
友達は、口を抑えながら自分のスマホを差し出した。
大家さんは、友達のスマホで通報した。
おろおろした口調で状況を伝える。
言ってる内容に、自分側に落ち度はない、このことはあまり報道しないで、という言い分が垣間見えて、咲子はイラついた。
大家につかつかと近付くと、腰に手を当て声を張り上げた。
「ちょっと、あんたねえ、そんなこと言ってるところじゃないでしょ! あんたがちゃんと告知しないから、こんなことになったんじゃない!」
「咲子さん、電話中ですよ、静かに」
八月晦日が横から口を挟んだ。
「なに他人ごとみたいに言ってんのよ、あんた!」
咲子は八月晦日を怒鳴り付けた。
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