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「分かりました。わたし、警察で証言します」
友達は言った。
やめてえええ。
咲子は心の中で必死に止めた。
「どちらかというと、実際の犯人は、ご自分なんですけどね……」
八月晦日が、背後から他人ごとのように言った。
「どちらかというとじゃないわよ!」
咲子は怒鳴り付けた。
「どうすんのよ! わたしの友達だけじゃなく、元カレまで疑われるじゃない!」
「お友達は大丈夫です。証拠隠滅には、充分の検品を実施し、最善の努力をさせていただきました」
「万が一不備があったらどうすんの! 責任取るのかっ!」
咲子は八月晦日に詰め寄った。
「いいこと考えたわ。あんた、うちのムカつく上司に取り憑いて、犯人はボクですって言って来なさい。ついでに、ここの部屋の特殊清掃の費用は、海山商事が支払いますって」
「咲子さん、暗黒面に堕ちてます……」
八月晦日は怯えた表情で言った。
しばらくすると、警察が到着し、咲子の遺体は搬出されて行った。
「ああ……せっかく商談に行けると思ったのに……」
八月晦日は泣きそうな顔で警察車両を見送った。
「泣きたいのは、こっちなの分かってる ?! あんたのくだらない出世欲のせいで、いきなり死んだのよ!」
咲子は言った。
「それに関しては大変申し訳ないとは思っています。つきましては、私から提案なのですが」
八月晦日は馬鹿丁寧に言った。
こういうとこが本当ムカつくわ、と咲子は思った。
「今後、ここにカップルの男女が住み着くよう、仕向けさせていただこうかと考えているのですが。咲子さんには、代わりと言っては何ですが、カップルの女性の方の体を乗っとり、お使いいただけたらと」
咲子は八月晦日の顔を、じっと見た。
有りかも。
「まあ……容姿をそれなりに考えてくれるなら」
咲子は言った。
「ええ、それはもう。きっとご満足いただけるものをご用意できるよう、最善の努力をさせていただきます」
八月晦日は膝に握りこぶしを乗せ、折り目正しくお辞儀をした。
朱色の夕焼けが窓から差し、夏の夜が訪れようとしていた。
終
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