荒野の死霊が物語る

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荒野の死霊が物語る

 私は見えるはずもない荒野の果てを眺めやって、ふと気付いた。月明かりに一面銀色に光る何かが、どこまでも広がっている。しばらく歩いて、足元の感触が変わったのでふと地面を見ると、しゃれこうべが月明かりに白く光っていた。見渡せば、辺り一面ぼんやりと銀色に光っているのは、無数の人骨だった。  背後で何かが動く気配に、クロスボウを片手に背中から抜いた剣を、振り向きざまに大上段から振り下ろした。手応えはない。しかし、相手は確かに目の前にいた。薄汚れたローブが剣風の名残に揺れている。だが地面を踏まえる足はなく、フードの奥にはぼんやりした光が2つ瞬いている。  うわさに聞くデスレイス(死霊)であろうと直感した。傭兵仲間に、夜営地でこれに出会った奴がいると聞いたことがある。もっとも、そいつも次の日に死んだから、本人に確かめる術はない。もしこれがその死霊であるならば、剣を振るったところで意味はない。私は、剣を捨ててその場に座り込んだ。クロスボウは手に持ったままである。背中には1本の矢もないのだし、あったところで利かないのだから無用の長物である。  死霊は私を見下ろし、低い声でつぶやいた。俺の話を聞いてくれるか、と。私は答えなかった。ガセかもしれないが、死霊と口を利いたら生気を吸い取られると聞いたことがあったからである。  死霊は、しばらく私の返事を待っていたようだが、痺れを切らしたのか(もっとも我慢というものがあるのかは知らないが)かすれた声で語り始めた。
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