落伍者の繰り言

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落伍者の繰り言

 私は落伍した。全くの油断である。隊はもうとっくに隣国まで行ってしまったことだろう。追いつくためには、この「渇き野」を抜けるよりほかはない。  「渇き野」は、国境に広がる乾燥した荒野である。日中は灼熱の地獄であり、夜中は獣の跋扈する魔界となる。だから、正気の人間は昼でも夜でもここを通ろうなどとは考えない。それを思いついた私は、おそらく、もはや正気ではないのだろう。  気が付いたら私は16歳ぐらいだった。それ以前のことは覚えていない。思い出せなくても差し支えはないだろう。  その時はもう革鎧を身にまとって背中には剣、利き腕でないほうの手には巻上機付きのクロスボウを提げていた。剣は片手持ちであるが、両手で振るうこともあるため盾は敢えて持っていなかった。クロスボウはアーバレストと呼ばれる、あぶみ式のものではなく、弦に更なる弦が付いていて、これを滑車で巻き上げて矢をつがえるのである。一言でいうと、私は常日頃から武装し、金で命をひさぐ傭兵であった。正確に数えたことはないが、おそらく30は越しているだろう。だいたいの年が分かっていればいい。どうせ前払いの金で売る命である。死んでも泣くものはない。     
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