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ドアが細く開いた途端、肌寒いほどの空気がエレベーターの中に流れ込んでくる。身震いをしてドアが開くのを待っていると、目の前に広がったのは三階と同じ暗闇だった。もちろん、そこには誰も待ってはいない。
私と友人は黙ったままだ。今思えば、口を開いて目の前の出来事を確認し合うのが怖かったんだと思う。開閉ボタンを押してドアを閉じ、一階に到着するのを待った。それはほんの一瞬だったはずなのに、私にはひどく長く感じられたのだった。
チン、とまた高い音が鳴り、エレベーターは一階へと到着する。私たちはその狭い箱から慌てて下り、その場でも話すことなく建物を急ぎ足で出た。そうして職場から少し離れて、ようやく先ほどの話を始めたのだった。
友人との夕食は大変楽しい時間だったが、話題はもっぱら先ほどのおかしな出来事のことだ。友人もおかしいと思っていたが、確認することが怖くて黙っていたらしい。おかしな体験をしたねと話しつつ、それをまた酒の肴にして会食は大いに盛り上がった。そう、これで終わっていれば、妙なことがあったというだけで終わる一日だったのに。
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