高架下の悪夢

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 男性は靄が掛かった頭をこちらへぐっと近づけると、 「───逃げなくてよかったな」  そうひと言だけ、言い放った。   私の恐怖は限界に達し、転がるように走り出した。ともかくその場から離れたい一心だったのだ。そうして走って走って、気がつくと家の近くの橋まで帰っていた。男性が追いかけて来ているかどうか、振り向いて確認することなど到底出来そうにない。恐ろしさで、足がガクガクと震えている。 その後、私はどうやって家にたどり着いたのか覚えていない。その夜、いつ眠ったのかさえ定かではなかった。  開けて翌朝、母親に昨晩のことを話すと、心なしか顔色が良くない。どうしたのかと尋ねると、「それ、亡くなったお父さんも同じ話をしていたことがあるのよ」と言うのである。実は、私と父親は同じ職場で勤務していたが、昨年の冬に原因不明で急死したのだ。  母親の告げた事実に、一瞬にして鳥肌が立った。父親は、あの男に何らかの仕打ちを受けて死んでしまったのだろうか。とすれば……次は私だ。私は膝から崩れ落ち、ただ震えることしか出来なかった。     
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