エレベーターの悪夢

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エレベーターの悪夢

 その日は、梅雨明け間近の金曜日だった。  糸のように細い雨の続く、空気がじっとりと湿った蒸し暑い日だったと記憶している。  数年も前の日のことを、こんなにもはっきりと記憶しているのにはもちろん理由がある。この日は、私にとってあり得ない出来事が重なった日だったのだ。    私はその当時、とある官公庁に臨時職員として勤めていた。建物のすぐ後ろには城山があり、日中は観光客で賑わっている。夜にはライトアップされたお城が、白いライトに浮かび上がって見え、昼とは違った幻想的な雰囲気を醸し出していた。また、その夜の城山には怪談話がいくつか語り継がれている。タクシーで夜更けにその裾野を走ったときには、運転手から様々な恐怖体験を聞くことが出来るのだ。  そんな城山をすぐ後ろに控えさせている職場だったので、夜は皆、ひとりで残業するのを嫌がったものである。もちろん、私もその中のひとりだ。     
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