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「そこのきみ、少し話を伺いたいのですが……」
やんわりと、たしなめる声が俺に話しかけてきた。
振り向くと、なかなかのイケメン警官が俺に歩み寄って来ていた。
「うるせぇ。こっち来んなっ」
俺はそう怒鳴って、持っていたビール瓶を振り上げる。
俺のその様子に、警察官が「やれやれ」と言ってため息を吐いた。
あれ? 全然ビビッてない。
ビール瓶片手の俺に対して、あいつは丸腰だ。
いやでも、警察官だから、拳銃……はさすがに携帯してないだろうけど、警棒ぐらいは持ってるのか。
俺は振り上げたこのビンをどうすれば良いのかわからなくなり、そのままの恰好で警察官を睨みつけた。
警察官は、水色の長袖ワイシャツと、紺色のスラックスというごくオーソドックスな交番警察の制服を着ている。
警帽をかぶっているその様は、ドラマとかに出てくる俳優のようで、そのイケメンぶりに腹が立って来た。
いいよな、税金で食ってる立場の奴らはよ。
俺なんか、毎日のように嫌味上司にしごかれ、給料からは理不尽な額の税金を引かれ、なおかつなにに使われているのか不明のくそ高い消費税を払ってるというのに……。
こいつらは、俺のその税金から給料をもらってるんだ。
それなのに、なんで俺がこんな若い警察官ごときにひるんだり、ヘコヘコしなければならないのか……。
そうだ。俺の方が立場は上なんだ。
俺は、酔っ払い特有のわけのわからない思考回路に陥り、このビール瓶さえ持っていれば最強なんじゃないかとすら思った。
だから俺は、威嚇するようにそれをさらに高い位置へ掲げ、
「さっさとあっち行けよクソ公務員がよっ」
と怒鳴ってやった。
警察官の眉が、ひくり、と動く。
イケメンがするりと帽子を脱ぎ、わざとらしくため息を吐いた。
「はた迷惑な酔っ払いですね。それは振り回したりいたずらに割ったりするようなものではないと、今日日幼稚園児でも知ってますよ」
冷静な声でそう言いながら、警察官が、俺の方へと歩み寄ってくる。
ビール瓶を持った手を掴まれた、と思ったら、次の瞬間、俺の手からそれは魔法のように消えていた。
え? と思って警官を見ると、俺から没収したビンはなぜだか彼の手の中にあった。
武器を取り上げられた俺は、見る間に怯んだ。
ど、どうしよう……。
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