酒は呑め呑め呑むならば

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 その日、俺のむしゃくしゃはピークに達していた。 (鍵村、こんな簡単な書類も出来ないのか) (鍵村、新入社員からやり直すか? んん?)  くそ厭味ったらしい上司の声がまだ耳に残っている。  ふざけるな、死ね、クソが。  腹の中で吐き捨てつつも、唯々諾々と従うしかない悲しき社畜の俺。  さらに先日金を貸した友人(もはや友人とも呼びたくない)が蒸発した。  保証人になったわけではないから、貸した金が返って来ない、というだけで、これ以上とばっちりを受けることはないが、千円とか二千円とかそんな単位の額ではないので、俺にとっては手痛い出費だった。  やくざに追われているのだろう友人に、逃げ切れ、とは微塵も思わない。むしろとっ掴まって、切り刻まれ、東京湾で魚の餌になればいいと思う。  そんな俺に追い打ちをかけるように、最近マンションの隣の部屋に引っ越してきた奴が、毎晩頼んでもいないのに、AV顔負けの喘ぎ声を聞かせてくる。  これが色っぽい女の声なら、おこぼれに与かってシコるおかずにでもさせてもらうところだが、男の喘ぎ声なのだ。  クソだ、クソ。どいつもクソだ。  しかし、そんな男の喘ぎ声に少しもよおしてしまう俺が、一番のクソだ。    俺は断じてゲイじゃない。  男のごつごつとした体よりも、女のやわらかな体の方が好きだ。巨乳ならなお良し。ガリガリよりも少しぽっちゃりとしている女が好みだ。  しかし、仕事が忙しすぎて、ここ数年彼女ができない。いや、付き合い出してもすぐに別れてしまう。  だから、肉欲を鎮めてくれる相手もいない俺の体は、欲求不満が過ぎて、こんな男の喘ぎ声ごときで容易く勃起してしまうのだろう。  憂鬱なことだらけの毎日を持て余した俺は、安酒を飲ませる居酒屋に行って、しこたま……それはもう、浴びるほどの酒を飲んだのだった……。
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