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笑顔を浮かべたまま、その人の表情や仕草に目を配る。
私の警戒が伝わったのかどうかわからないが、彼は微笑みを崩すことなく「失礼」と頭を下げた。
「お急ぎのご様子だったのに、つい声をかけてしまった。足止めしてしまいましたね」
話の終結が見えたセリフにほっとする。時間も気になるし、名前だけでどこの誰かよく知らない相手と何を話していいかもわからないので、正直助かった。
「いえ。すみません、家族と約束があるものですから」
「皆さまでお食事ですか」
「はい。祖母の誕生日で……少し遅れてしまって」
「それは、おめでとうございます。急がなければなりませんね」
小さく会釈をしてエレベーターへ急ごうとしたのだが、それより先に彼が先行して早足でエレベーターへ向かった。私より先に、上行きのボタンを押すと、『ポン』と柔らかい音がしてすぐに扉が開く。
「どちらのお店ですか?」
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