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空の青に、豊かな緑あふれる敷地は眩しいほど色鮮やかだった。
都心から離れた街にある国内屈指の日本庭園で、毎年開かれる由緒ある野点の席がある。
各国大使の家族や政治関係者、実業家などが訪れる。
私のような小娘が本来関わることのない世界に、一瞬だけでも足を踏み入れられるのは、この時だけだ。
祖母と一緒に出席したその茶会で、初めて彼を見かけた。
私は、いつもよりきつく締め過ぎた帯に苦しめられていたところだった。
悟られないように静かに吐いた溜息を誤魔化すように笑って周囲を見渡す。
野点傘、緋色の毛氈のかけられた縁台が緑の芝生に並べられている。
そこで一際、目を引く男性がいた。
ダークスーツの長身にすらりと伸びた手足、陽の光に艶めく黒髪。
整った目鼻立ちと切れ長の瞳。
そう、その黒い双眸がどうしてだか私を真直ぐ見据えていて、どうしてあんなに綺麗な男に私は見つめられているのか全然わからなくて、ただ心臓がどきどきと早鐘を打つ。
やがてすいっと、視線は外れてその時はそれきりで、私はただ眼福だったと心の中でそっと手を合わせた。
それだけの、思い出のはずだった。
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