葛城圭という男

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『もしもし?』 スリーコール程度ですぐに通話に切り替わる。 「……望月藍と申します。今、『書面』を受け取りましてご連絡させていただいたのですが」 『ああ、藍さん。ちょっと待って』 今時こんな古臭い、しかも筆でやたら達筆な釣書なんか送ってきて、一体どういうつもりなのか。そう一息に捲し立てるところだったのに、彼の『待て』で勢いが遮断される。 ごそ、シュル、と布の擦れるような音がしたと思えば、ふっと息づかいが電話越しに聞こえてなぜだかどきりと心臓が跳ねた。 『お待たせ。俺も今帰って来て、着替えていたところだったから』 「あ……すみません、タイミング悪くて」 『どうして? すぐに連絡くれて嬉しいよ』 低い柔らかい声は間違いなくあの人なのだけれど、家だからだろうか、話し方がフランクになっていて戸惑った。一人称も『私』ではなく『俺』になっていて、あのホテルでの話し方はビジネスモードだったのだろうか、確かに馬鹿丁寧な口調ではあったけれど。 のっけから調子が乱されて、自分が何から話そうと思っていたのか、切り口を見失ってしまった。
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