なんですって

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創業は百五十年以上前。幕末から続き、長く愛されてきた老舗和菓子店『花月庵』が、私、望月藍(もちづきあい)が生まれた家である。 菓子業界は時代と共に店舗販売だけでは経営が苦しく、工場で量産できる菓子へと切り替えていった和菓子屋は多い。 花月庵も例にもれず、だった。 今現在、どうにか経営出来ているのは、花月庵のお菓子がインターネットで買えるという、お取り寄せスイーツがどうにか当たったからだ。 だけど、長く家を守って来た両親や和菓子職人にとって、それは屈辱でもあるようだった。 工場生産のお菓子は本当の花月庵の味とはいえない。そのプライドが、かろうじて本店でのみ守られている。代々の職人が守り続けてきた『花月庵の伝統和菓子』を本店限定にして、価値感を跳ね上げさせたのだ。 花月庵のお客様は、政治家や官僚など、国政に関わる家系が多く、古くからご愛顧いただいている。 『大事な茶会や慶弔行事には花月庵を』 そう呼ばれることが、きっと今も花月庵を守って来た両親の誇りなのだろう。だからたとえ採算が取れずとも、本店で出す練り切りだけは頑なに職人の手による限定数の生産を貫いていた。
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