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人込みを抜けながらホテルに急ぎ、どうにか約束の時間五分前にホテルロビーに足を踏み入れ、エレベーターまでまっすぐ向かおうとした時だ。
突然、知らない男性の声で呼び止められた。
「望月藍さん?」
その声は、低く響いて耳に残る。艶のある声だった。声に釣られて振り向き、そこに居た人物に目を奪われる。
とても綺麗な男の人だった。
柔らかそうな漆黒の髪、彫りが深く整った顔立ち。一八〇センチは充分ありそうな長身は、手足も長くスタイルもよく、ダークグレーのスーツを品良く着こなしている。
……誰?
どこかで見たことがあるような、そんな気はした。だけど誰だかはわからない。しかし相手は私の顔だけでなく名前も知っている。
「ああ、やっぱり藍さんだ」
親し気に、穏やかな笑顔で私にまっすぐ近づいてくるその人を、思い出そうと必死で記憶を辿っていた。
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