なんですって

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「あの……」 誰だろう。花月庵のお客様? 取引先だろうか。 だとしたら、覚えてないなどと失礼なことは言い難い。 対応に困っていると、察してくれたらしい。 その男性は、綺麗な所作で腰を折る。 「失礼致しました。私は葛城と申します。去年の春の茶会で貴女をお見掛けしまして」 「……あ!」 茶会と聞いて、すぐに思い浮かんだ。 誰だかはわからないはずだ、元々名前は知らなかった。 ただ、毎年春、花月庵が主菓子を提供している大きな茶会があり、去年に祖母と一緒に出席していた。そこで確かに彼を見た。 彼も私を見ていたけれど、少し距離があったし言葉も交わしていない。だから、顔を見ただけですぐに思い出せるほど、記憶に残っていなかったのだ。 「……失礼致しました。お久しぶりでございます」 「そうですね、今年もお会いできるかと思っていたのですが……」 「今年は、どうしても仕事を休めなくて。出席できなかったんです」 話しながら、何かが引っかかる。 私に会いたかった、ということだろうか。 言葉を交わしたのは、今が初めてなのに。
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